2010年10月04日

「先輩と猫と、時々僕」第7話「酩酊」〜完〜

「先輩、いい加減飲みすぎですよ」
 まったくもって面倒くさい。いつもより声もテンションも大きいし、姫様にでもなった気分なのだろうか? いや、いつも姫様のように振舞っているが。それでも今日は、いつもより激しいというか、何というか……。
「うるさいなぁ。たまには酒に呑まれて、何もかも忘れたい時だってあるだろう。お子様のお前に言っても分からないか……」呂律があまり回っていない。
「どうしたんですか、先輩らしくないですよ」
「私しくらしくない? 何を言っている、普段通りだろう……」
 普段通りなら、涙なんか見せないだろう。前にサークルのコンパで飲んだときは、泣き上戸はしていなかった。男として、というのも何だが、女に涙見せられると困るんだよなぁ。どうしたらいいかわからないし。何やっても裏目に出そうな気がする。
「なぁ後輩、私は明日出て行くよ」
「はい? 何か言いました?」ビールの缶を片付けていてよく聞こえない。
「明日、ここを出て行く……」
「ようやくアテでも見つかったんですか? それはそれは……」
 ふざけてみたものの、先輩は宙に視線を漂わせている。何かを決心したようにも見えた。
「何故、出て行くんですか?」
「世話になったな……」
「何故、出て行くんですか?」少し声を強める
「ん、あぁ……、私は元々一人だからな」
「そうですか」
「だから、でていk……」
「でもそれは元々でしょう。今は俺がいます。それにアビーも……」僕の真面目な声に、アビーもにゃーと相槌をうって、先輩に寄り添った。「先輩、ここに居てください」
 先輩は泣きすぎて真っ赤になった眼を丸くして、僕を凝視している。
 しばらくして、大声で泣きながら体当たりされた。
「何するんですか、ちょっと痛いですよ……。先輩……?」
「私は性格が悪いし、育ちだってわるい、お前に迷惑ばかりかけて悪い……」
 ぐだぐだ言うのがむかついて、僕は先輩に口づけをした。
 ビールの味と、涙の塩辛い味がした。
posted by ジャム at 21:29| Comment(22) | 長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月21日

「先輩と猫と、時々僕」第6話「帰り道」

 あのバカ、起きたらいなくなってやがった。どこかに行くなら、置手紙の一つもしていくのが礼儀だろうが。これでは朝食と昼食のアテがない。
 そのせいで、買出しをしなくてはならなくなった。
 とりあえず、コンビニに行って、弁当を買ってきた。
 帰り道川原で一休みをする。
「思えば、遠くまで来たもんだ……、なんてな。私らしくもない」独り言を言ってしまった。
 空を見ながら考え事をしていると、足元に猫が寄り添ってきた。
「どうした? お前も一人か?」
 猫は小さく、にゃーと鳴いた。
「そうか、私も一人だ……」
 猫の頭を撫でてやる。野良猫だろうか、身体のあちこちが汚れている。真っ白い毛だろうと思われるが、今は汚れて灰色になっている。猫は撫でてやった手を舐めた。袋から、から揚げクンを取り出して、差し出した。
 猫は勢いよく食べ始めた。
「そんなに、がっつかなくても……」
 たまたま魔が差して買った牛乳を思い出して、それも猫にあげた。
 なんというか、これが小さな幸せだろうか。嫌なことはほとんどないし、こんな私でも何だかんだで居候させてくれるバカもいる。まだ、生きているのも悪くないな。
 猫が残した牛乳を川の近くの砂利に捨て、潰して袋にいれた。
「お前も一緒に来るか? バカだけど良い奴が居てな、多分お前も飼ってくれるだろう」
 にゃーにゃー鳴く猫を抱きかかえて、家路を辿る。
 すると、前から見知った顔が来た。
「先輩ー、どこ行ってたんですかー! 早くしないと、せっかくの料理が冷めます!」大声で後輩が言った。
 噂をすれば、だな…。
posted by ジャム at 22:29| Comment(2) | 長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月14日

「先輩と猫と、時々僕」第5話「不意打ち」

 先輩の買い物に付き合っていたら、思った以上に時間がかかった。女の買い物は長いと聞いたが、先輩の買い物時間は、尋常じゃない。文字通り朝から夜まで、だ。
 気付けばあたりはすっかり暗くなっている。
 目だけを左下に落とし、腕時計を見る。時刻は二十時過ぎ。
「何でこんなに買い込むんですか……、しかも僕のお金で」
「女々しいことを言うな。金持ちならば金を使って、経済を潤わせろ」
「わかりました、百歩譲ってお金の事は言いません。が、しかし、何故荷物は全部僕が持つんですか?」言ってからバランスを崩しそうになる。
「女に荷物を持たせるなんて、男の風上にもおかけん奴だな」
「先輩たしか、色々格闘技やってましたよね? 僕より絶対力持ちじゃないですか」
「グダグダ言うな。それより今日の夕飯は何だ?」
「さっき先輩、ハンバーグ食べたいって行ったじゃないですか。そのためわざわざ高級な肉を買ってきたんですよ」
「おーそうだったな。店よりも上手いハンバーグを期待してるぞ」そう言って先輩は僕の肩を叩いた。
 痛いというのもあったがそれ以上に、勢いがあったせいで、荷物を落としそうになった。これでもう何回目だろう。10回は危ない場面があったハズ。
「たまには自分で作ってくださいよ。差別するわけじゃないですけど、料理できる女性ってけっこうステータスだと思います」
「何だ後輩よ、私に惚れて手料理でも食べたくなったのか?」
「あ、流れ星」
タグ:長編
posted by ジャム at 19:42| Comment(0) | 長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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